目次
- 危機対応とは?言葉の意味や危機管理(リスクマネジメント)との違い
- 危機対応は「いつ・誰が・どのように」行うのか
- 危機対応マニュアルはなぜ必要か|日本企業の策定率と整備の実態
- 正しい危機対応とは?広報担当者が押さえるべき原則と観点
- 危機対応の失敗パターンとメディア対応のポイント
- 炎上事例に学ぶ|危機対応の失敗が招いた7つのケース
- 危機対応マニュアルの種類とBCP・関連文書との違い
- 危機対応マニュアルの作り方|盛り込む13項目と作成7ステップ
- 広報向け危機対応マニュアルとは|必要な場面と記載すべき項目
- 広報向け危機対応マニュアルの作り方と対象者の設定
- 作って終わりにしない|マニュアルを形骸化させない運用方法
- 危機対応マニュアルは自社作成と外部依頼のどちらを選ぶべきか
- よくある質問
- まとめ:マニュアルは「作ること」ではなく「機能させること」がゴール
危機対応とは?言葉の意味や危機管理(リスクマネジメント)との違い
危機対応(クライシスマネジメント)とは|リスクマネジメントとの違い
企業における「危機対応」とは、組織の存続・信頼性・事業継続に重大な影響を与えうる事態が発生した際に、被害を最小限に抑えることを目的として行われる一連の活動を指します。
製品への異物混入、従業員によるSNS上の不適切投稿、情報漏洩、自然災害、取引先の倒産など、平時には想定しにくい出来事であっても、いずれも企業活動の中で発生しうるリスクです。危機対応とは、こうした事態を事前に想定した上で「何が起きたとき、誰が、何をするか」を整理し、実際に危機が発生した際に組織が冷静かつ迅速に行動できる状態を整えることを意味します。
なお、危機管理(リスクマネジメント)と混同されることがありますが、リスクマネジメントが「危機を起こさないための予防策」を中心に扱うのに対し、危機対応(クライシスマネジメント)は「危機が実際に発生した後の対処」を中心に扱います。両者は相互補完の関係にあり、いずれか一方の取り組みのみでは企業リスクへの包括的な対応とはなりません。
企業が直面する危機の9つの種類
企業が直面しうる危機は、大きく以下の9つのカテゴリに分類されます。

このうち近年増加傾向にあるのが「SNS・レピュテーション」に関する危機です。SNSの普及により、消費者や従業員の発信が瞬時に不特定多数へ拡散し、企業の信頼性に影響を与える事態が生じやすい環境となっています。
危機対応マニュアルの歴史|ICSから日本のBCP普及まで
組織的な危機対応の体系化には、軍事・防災の分野が先駆的な役割を担ってきました。
現代の危機対応マニュアルの源流のひとつとされるのが、1970年代にアメリカで開発されたICS(Incident Command System:インシデント・コマンド・システム)です。カリフォルニア州で多発した大規模森林火災の消火活動における失敗を教訓に構築されたこのシステムは、指揮命令系統の一元化、役割の明確化、用語・様式の標準化を特徴としており、現在では消防・警察・軍・民間企業に至るまで幅広く活用されています。
参考:インシデントコマンドシステムとは? – KOTORA JOURNAL
https://www.kotora.jp/c/113017-2/
日本においては、1995年の阪神・淡路大震災を契機に、行政・企業における危機管理マニュアルの整備が加速しました。2005年には内閣府が「事業継続ガイドライン第一版」を策定し、企業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)策定を促進しています。さらに2011年の東日本大震災を経て、企業における危機管理体制強化への取り組みが一層進みました。
企業の広報・PR領域における危機対応マニュアルは、大手企業を中心に2000年代以降に体系的な整備が進み、SNSの普及とともにソーシャルメディア上のリスク対応もその対象に含まれるようになっています。
危機対応は「いつ・誰が・どのように」行うのか
危機対応が必要になる場面と、対応にあたる6つの役割
危機対応が必要となるのは、社内外から問題事案が発覚したタイミングです。具体的には、SNS上での情報拡散が確認されたとき、メディアから取材依頼が届いたとき、行政機関から調査が入ったとき、社内でインシデントが発覚したときなどが代表的な契機となります。
対応にあたっては、担当部署の一担当者のみに委ねるのではなく、以下の関係者が連携する体制が一般的とされています。
- ●経営トップ(社長・役員):最終意思決定者として対応方針を決定する
- ●広報・PR担当:メディア対応、プレスリリースの作成・発信を担当する
- ●法務担当:法的リスクの評価、声明文の確認を行う
- ●人事・コンプライアンス担当:社内調査、当事者対応を担う
- ●現場責任者:事実関係の把握と情報収集を担う
- ●IT・システム担当:情報漏洩やサイバー攻撃が発生した場合に技術的対処を行う
対応の進め方は、事前に整備された危機対応マニュアルに沿った体制と手順の遂行が基本となります。実務上は、事案の検知から関係者への第一報まで最大でも1時間以内とすることが目安とされています。情報の初動連携が遅れるほど対応の選択肢が狭まり、被害が拡大する傾向があります。
危機対応の整備が進んでいる5つの業界
危機対応体制の整備は、規制の強さと事故発生時の社会的影響の大きさに比例して進む傾向があり、特に以下の業界で整備が進んでいます。
金融・保険業:
顧客資産を取り扱う性質上、情報漏洩や不正対応のマニュアルが高水準で整備されています。金融庁による法規制のもと、対応体制の開示が実質的に義務付けられている状況にあります。
食品・飲料業:
製品の安全性が直接消費者の生命に関わるため、異物混入・食中毒・リコール対応のマニュアルが詳細に設けられています。消費者庁や食品安全委員会のガイドラインに即した整備が求められます。
製薬・医療機器業:
PMDA(医薬品医療機器総合機構)の規制のもと、製品回収や副作用対応のプロトコルが厳密に定められています。
航空・交通・インフラ業:
大規模事故が即座に社会インフラへ影響を及ぼすことから、事故対応・広報対応が高度に整備されており、定期的な訓練も実施されています。
IT・通信業:
近年のサイバー攻撃の増加を受け、インシデントレスポンスの体制強化が課題となっています。2024年に発生した大手出版社へのサイバー攻撃を契機に、多くのIT企業で危機対応マニュアルの見直しが進んでいます。
一方、中小企業や小売・飲食業では対応体制の整備が遅れる傾向がありますが、SNSの普及により業種・規模にかかわらず炎上リスクが高まっており、業界を問わず危機対応への備えが求められる状況となっています。
危機管理に積極的に取り組む企業の例
危機管理対応に積極的に取り組む企業の例として、以下のような取り組みが知られています。
大手航空会社・交通機関:
事故対応マニュアルが高度に整備されており、定期的な模擬訓練(シミュレーション)が実施されています。広報部門と現場の連携体制が確立されており、有事の際には迅速に記者会見を開くことができる準備が整えられています。
大手食品メーカー:
製品の異物混入や食品安全事故を想定したクライシスチームが常設され、初動から収束までの段階別プロトコルが整備されています。
大手通信キャリア:
2022年に発生した大規模通信障害の教訓をもとに初動対応体制が強化されました。KDDI社の通信障害発生時の対応は、会見における誠実かつ技術的に的確な説明が評価された事例として広く参照されています。
上場企業を中心に累計1500社以上の危機管理体制構築を支援してきたクラッドのクライアント企業においても、SNSモニタリング体制を整備した上で、SNS炎上の危機対応を模擬体験する炎上防災訓練を通じて広報チームの「リスク対応における共通認識」を形成している例があります。
危機対応マニュアルはなぜ必要か|日本企業の策定率と整備の実態
マニュアルがない企業で起きる4つの問題
危機対応マニュアルの最大の役割は、パニック状態でも組織が同一の基準で動ける状態をつくることです。危機が発生した際、担当者はプレッシャーの中で「何をすべきか」「誰に連絡すべきか」「何を言ってよくて、何を言ってはいけないか」といった判断をゼロから行うことになり、これは極めて困難です。
マニュアルが整備されていることで、対応の判断にかかる時間が短縮され、複数の担当者が同一の基準と手順で行動できるため、情報の一貫性が保たれます。また、各担当者が自分の役割に集中できる状態が生まれます。
一方で、マニュアルが存在しない状態で危機対応を行った場合には、以下の問題が起きやすくなります。
- ●社内での情報連携が遅れ、初動が遅くなる
- ●最終判断者(経営トップ)への連絡が遅れ、事態が悪化する
- ●部署ごとに異なる対応・異なるコメントが発信され、情報の一貫性が失われる
- ●担当者が感情的な対応をとり、不適切な発言や行動につながる
これらのリスクは、マニュアルの整備によって一定程度防ぐことができます。
日本企業の危機対応マニュアル・BCP策定率【最新調査データ】
公的調査によると、危機対応体制の整備状況には企業規模による大きな格差があります。
危機対応マニュアルと密接に関連するBCP(事業継続計画)の策定状況を見ると、内閣府の令和5年度調査では大企業の策定率が76.4%、中堅企業が45.5%となっており、令和3年度比でいずれも5%程度上昇しています。
参考:内閣府 令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/chosa_240529.pdf
帝国データバンクの2025年調査では、全国企業のBCP策定率が初めて20%を超えて20.4%となったものの、大企業38.7%に対して中小企業は17.1%にとどまっており、企業規模間の格差が拡大していることが示されています。
参考:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2025年)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250620-bcp2025/
また、策定済みの企業においても、「定期的な見直しと訓練の両方を実施している」企業は3割弱にとどまるという調査結果があります。
参考:NTTデータ経営研究所「第8回 企業の事業継続に係る意識調査」
https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/ncom-survey/250226/
広報対応に特化した危機対応マニュアルやSNS炎上に特化したマニュアルの整備状況については公的な調査データが限られていますが、特に中小・中堅企業において、実効性のあるマニュアルが整備されていない状況が多く見受けられます。
正しい危機対応とは?広報担当者が押さえるべき原則と観点
正しい危機対応の5原則
危機対応における適切な対応とは、法的に正当であること、倫理的に妥当であること、そしてステークホルダーへの説明責任を果たすことの三つの要件を満たすものとされています。
具体的な行動原則として、以下の5点が挙げられます。
- 事実確認の優先:
憶測や感情的な判断ではなく、まず正確な事実を把握することが前提となります。「何が、いつ、どこで、どのように起きたか」を確認しないまま情報を発信した場合、後から修正が必要となり、「情報を隠蔽していたのではないか」という疑念を招くことがあります。 - 迅速かつ誠実な情報開示:
正確な情報が得られた段階で、関係するステークホルダーへ速やかに開示することが原則とされています。対応の沈黙は「隠蔽」と解釈される場合があります。 - 被害者・影響を受けた当事者への優先対応:
法的な問題や企業側の立場よりも、影響を受けた当事者への誠意ある謝罪・補償対応を優先することが、長期的な信頼回復に寄与するとされています。 - 一貫した情報発信の維持:
経営幹部、広報担当、現場担当者それぞれが異なるコメントを発信することは混乱を招きます。対外発信は一元管理し、一貫性を保つことが求められます。 - 再発防止策の明示:
謝罪にとどまらず、発生原因の分析と再発防止に向けた具体的な取り組みを示すことで、信頼回復が促進されます。
危機対応で重要となる6つの観点
危機対応の成否を分ける観点として、特に以下の6点が重要とされています。
初動スピード:
危機対応では最初の数時間の対応が重要とされています。対応が遅れるほど憶測が広がり、批判が拡大する傾向があります。前述の通り、事案の検知から関係者への第一報まで最大でも1時間以内が実務上の目安です。
情報の一元管理:
情報の発信窓口を一本化し、広報部門がすべての対外発信を管理する体制が求められます。複数の窓口から異なる情報が発信された場合、収拾が困難になります。
経営トップの関与:
重大な危機においては、経営トップが前面に立ち誠実に対応する姿勢を示すことが、ステークホルダーからの信頼回復に寄与するとされています。
透明性と誠実さ:
企業にとって都合の悪い情報であっても、事実を誠実に開示することが原則とされています。隠蔽や虚偽説明が後から発覚した場合、ダメージが大幅に拡大する傾向があります。
被害拡大防止の優先:
まず被害をそれ以上広げないことを優先し、並行して原因究明と対応策の検討を進める体制が求められます。
ステークホルダーへの対応優先順位:
すべての関係者に同時に対応することは現実的ではありません。被害を受けた当事者、メディア、行政機関、従業員、取引先など、優先順位を事前に整理しておくことが有効とされています。
危機対応の失敗パターンとメディア対応のポイント
誤った危機対応の6つの失敗パターン
危機対応において陥りがちな失敗パターンは、以下の通りです。
初動対応の遅れ:
「大した問題ではない」「様子を見よう」という判断が初動の遅れにつながります。炎上やメディア報道は短時間で拡大するため、対応の判断が遅れるほど選択肢が狭まります。KDDIの2022年の通信障害では、初動対応の遅れが批判を招き、店舗に顧客が殺到するという二次的な被害が発生しました。
隠蔽・事実の不開示:
ある大手飲食チェーンで、害獣の混入事案が発生してから約2ヶ月後にSNSでレビューが公開され、「隠蔽していたのではないか」との批判が拡大した事例があります。早期の事実開示によって防げた可能性のある二次炎上でした
参考:企業のSNS炎上事例12選 – 株式会社ジールコミュニケーションズ
https://zeal-security.jp/blog/sns_enjojirei/
虚偽説明・説明の二転三転:
発表した内容が後に訂正・修正される事態は、「当初から事実を伝えていなかった」という印象を与え、信頼を著しく損ないます。
誠意なき謝罪:
責任の所在を曖昧にした謝罪や、表面的な謝罪文の発表にとどまる対応は、批判をさらに増幅させる場合があります。
SNSでの不適切な個人発信:
ある企業の代表者が炎上後に個人SNSで顧客との直接メッセージの内容を無断で公開したことにより、炎上が大幅に拡大した事例があります。経営者個人のSNS発信も含め、危機時の発信ルールを事前に定めておくことが必要となります
参考:企業SNS炎上事例10選 – KnowledgeBox
https://kwlg-box.jp/sns-crisis-management-manual-001/
説明なしの投稿削除:
問題となる投稿を説明なく削除した場合、「証拠の隠蔽」と受け取られ、炎上がさらに加速するケースがあります。
メディア対応の5つのポイント
危機発生時のメディア対応は、企業の信頼性を左右する重要な局面となります。広報担当者が把握しておくべきポイントは以下の通りです。
- 対応窓口の一本化:メディアからの取材対応は広報部門が一元的に行い、現場担当者や一般従業員がコメントしないよう社内への周知徹底が求められます。
- 発信可能な情報の整理:調査中の事実については「現在調査中であり、確認が取れ次第速やかにお伝えします」という表現で対応することが適切とされています。憶測や未確認情報の発信は避けることが原則です。
- 「ノーコメント」の回避:「ノーコメント」という表現は情報を隠しているとの印象を与えやすいとされています。「現時点ではお答えできる情報がありませんが、確認次第お伝えします」という姿勢での対応が適切です。
- 平時のメディアリレーション:重大な問題が発生した際でも、それまで良好な関係を築いてきた記者は客観的な報道を心がける傾向があります。広報担当者による日常的なメディアリレーションが、危機時の対応にも影響します。
- 発表内容の法務確認:プレスリリースやQ&Aについては、法務部門の確認を経た上で発信することが求められます。不適切な表現が新たなトラブルの原因となるケースがあります。
炎上事例に学ぶ|危機対応の失敗が招いた7つのケース
以下に挙げる事例はいずれも、危機発生後の対応のまずさが炎上を拡大・長期化させた代表的なケースです。各事例における要因と教訓を整理します。
事例1:大手飲食チェーン「害獣混入事案の隠蔽疑惑」
概要:大手飲食チェーンの一店舗で商品への害獣混入が発生したにもかかわらず、事案発生から約2ヶ月後にGoogleマップの口コミに画像付きで情報が掲載されました。SNSで拡散し、全店舗が一時休業する事態となりました。
炎上の要因:
- ●事案発生から公表まで約2ヶ月が経過していたこと
- ●「なぜすぐに公表しなかったのか」という疑念が「隠蔽」と受け取られたこと
- ●謝罪後も「隠蔽していたのではないか」という批判が継続し、二次炎上が発生したこと
教訓:事実が確認された時点での早期情報開示が、信頼維持の観点から有効とされています。情報の公開を遅らせることは、後に大きなダメージとなる場合があります。
参考:企業のSNS炎上事例12選 – 株式会社ジールコミュニケーションズ
https://zeal-security.jp/blog/sns_enjojirei/
事例2:ハウスメーカー「投稿者への法的措置発表」と再炎上
概要:大手ハウスメーカーの展示場を訪れた人が施工上の問題をSNSに投稿したことが発端となりました。企業側は投稿者の居住地やアカウント名を公式サイトに掲載した上で法的措置の検討を発表。「スラップ訴訟」との批判が生じ、落ち着きかけた炎上が再燃しました。
炎上の要因:
- ●投稿者の個人情報を公式サイトに掲載したことが強い批判を招いたこと
- ●消費者批判に対して「対立姿勢」を示したことで、世論が消費者側に傾いたこと
- ●以降の対応も一貫性を欠き、炎上が長期化したこと
教訓:クレームや批判に対して法的措置を示唆する対応は、逆効果となるリスクが高いとされています。SNSの普及した環境においては、「企業対消費者」という構図が形成されると収拾が困難になる傾向があります。
参考:企業のSNS炎上事例11選 – 株式会社ガイアックス
https://gaiax-socialmedialab.jp/company-flaming-casestudies-20240302/
事例3:テーマパーク経営者「顧客DMを個人SNSで公開」
概要:あるテーマパークで料金に関する顧客の不満がSNSに投稿され炎上が発生しました。企業の代表者が個人アカウントで顧客との直接メッセージの内容を公開したことで、「プライバシーの侵害」と受け止められ、事態がエスカレートしました。
炎上の要因:
- ●炎上への対応として行った「個人SNSでの事情説明」が、新たな炎上の火種となったこと
- ●顧客との個人的なやり取りを無断で公開したことへの批判が集中したこと
- ●一度拡散した内容は削除しても回収が不可能であること
教訓:経営者個人のSNS発信も、企業の対外発信の一部として管理対象となります。危機時における経営者個人のSNS利用についてルールを事前に整備しておくことが有効です。
参考:企業SNS炎上事例10選 – KnowledgeBox
https://kwlg-box.jp/sns-crisis-management-manual-001/
事例4:サプリメント企業「インフルエンサー起用PRでの薬機法違反」
概要:あるサプリメント企業がインフルエンサーを起用してPRを実施しましたが、使用した表現が薬機法に抵触し炎上しました。さらに初期対応として、公式発表前に関係者が個別に発言し、説明なしに問題の投稿を削除したことで炎上が拡大しました。
炎上の要因:
- ●コンプライアンスチェックが不十分なまま発信が行われ、法令違反が発生したこと
- ●説明なしの投稿削除が「隠蔽行為」と受け取られたこと
- ●公式発表より先に関係者が個別に発言したことで、情報の一貫性が失われたこと
教訓:インフルエンサーや外部パートナーが関与するPR活動においては、表現ガイドラインと炎上時の対応マニュアルを事前に共有しておくことが必要とされています。
参考:企業のSNSの炎上事例まとめ – 株式会社エルテス
https://eltes-solution.jp/column/digitalrisk-133
事例5:食品メーカー経営者「SNSでの社会的発言」
概要:大手食品メーカーの会長がSNSで移民に関する個人的な意見を発信したことで不買運動が発生しました。「会長の発言は会社の方針か」という議論がSNS上で拡大し、企業ブランドへの影響が生じました。
炎上の要因:
- ●経営者個人の政治的・社会的発言が企業ブランドに直結するリスクが考慮されていなかったこと
- ●炎上後の危機対応が迅速に行われなかったこと
- ●発信内容の文脈管理が不十分であったこと
教訓:経営者の個人的な発言であっても、企業の公式見解として受け取られるケースがあります。役員・経営者向けのSNS利用ガイドラインの整備は、企業防衛の観点から有効な手段のひとつとされています。
参考:2025年最新 企業のSNS炎上事例 – 株式会社エルプランニング
https://www.elplanning.co.jp/column/digital_risk_measures/sns-flaming-case/
事例6:大手食品メーカー「新卒採用条件と実態の乖離」
概要:ある大手食品メーカーで、新卒社員への対応がずさんであったとしてSNS上で炎上しました。「新築の寮と説明されていたが実態は雨漏りのする建物だった」「入社後に給与が3万円下がった」「オフィス勤務と説明されていたが工場勤務だった」などの情報が拡散し、ニュースでも大きく取り上げられました。新卒内定辞退者が9割を超える事態に発展しました。
炎上の要因:
- ●採用時の説明と実態の乖離という企業内部の問題が、SNSを通じて広く顕在化したこと
- ●従業員・内定者の不満が外部に向かう「内部告発型炎上」の構図をとったこと
- ●企業の誠実さへの根本的な不信感が生じたこと
教訓:炎上の火種は外部だけでなく、社内にも存在します。従業員や内定者の不満に向き合う社内制度の整備と、外部告発が発生した場合の広報対応体制の整備が必要とされています。
参考:炎上対策って何する? – 株式会社ジールコミュニケーションズ
https://zeal-security.jp/blog/snsrisk_iroha/
事例7:大手通信キャリア「大規模通信障害と初動の遅れ」
概要:2022年に発生した大規模な通信障害において、初動対応としてHP上に障害情報を掲載したのみにとどまり、顧客への十分な説明がなされませんでした。「障害が発生しているのに状況がわからない」という不満から、店舗に顧客が殺到する二次的な混乱が生じました。
炎上の要因:
- ●初動の情報発信が消費者への説明として不十分であったこと
- ●通信が利用できない状況下での代替情報提供手段が不足していたこと
- ●障害解消が進まない中での顧客対応に混乱が生じたこと
注目すべき対応:ただし、その後の記者会見では技術畑出身の社長が技術的な質問にも的確に対応し、真摯な謝罪を示したことで、ユーザーからの賞賛と応援の声が多数上がりました。初動の遅れはあったものの、会見での対応がその後のダメージ拡大を抑制した事例として参照されています。
参考:危機管理広報のプロが解説|良い謝罪会見から学ぶ5つのポイント – クラッド
https://clad.inc/socialrisk/column/240423
危機発生時に社内で起きやすい5つのトラブル
危機が発生した際、企業内で起きやすいトラブルを以下に整理します。
社内上層部の意見の対立:
危機時には「すぐに謝罪すべき」「まず事実確認が先決」「法的リスクがあるため発表を控えるべき」など、部署・役職によって意見が分かれるケースがあります。議論に時間が費やされる間に炎上が拡大し、対応が後手に回る事態が生じます。事前に「最終決定者は誰か」「どのような判断基準で行動するか」を定めておくことで、こうした状況を防ぐことができます。
担当者のパニックと判断の誤り:
炎上は突然発生するため、担当者がパニック状態となり、感情的な対応をとってしまうことがあります。SNSへの感情的な反論、問題の投稿の説明なしの削除、記者への不適切な返答などが、炎上のさらなる拡大につながるケースがあります。
経営トップへの連絡遅延:
現場から経営トップへの報告が遅れるケースが多く発生しています。「大した問題ではないだろう」というリスクの過小評価や、報告ライン上での滞留などが原因となります。事案の検知から1時間以内に関係者全員が状況を把握している状態が、実務上の目安とされています。
参考:SNS炎上とは – クラッド
https://clad.inc/socialrisk/column/250615
不適切な態度や発言:
記者会見や謝罪の場での不誠実な態度は、謝罪内容よりも先に批判の対象となります。ため息、視線の定まらなさ、言い訳の多さ、被害者意識の表出などが、炎上を加速させる要因となります。
情報の複数出口による不一致:
広報が発表した内容と、現場責任者が記者に話した内容が食い違うと、「企業が事実を隠している」という印象につながります。危機時の情報発信は必ず一元管理する体制が求められます。
危機対応マニュアルの種類とBCP・関連文書との違い
危機対応マニュアルの7つの種類
危機対応マニュアルは、対象とするリスクの種類によって複数に分類されます。
自然災害対応マニュアル:
地震、台風、洪水などを想定した対応手順書です。従業員の安全確保、施設・設備の被害確認、事業継続のための代替手段などを規定し、BCP(事業継続計画)と連動した内容が含まれます。
事故(火災・爆発)対応マニュアル:
工場や施設での火災・爆発事故を想定したものです。初期消火・避難、行政機関への報告、周辺住民への対応、製品安全に関わる場合の消費者への情報提供などが含まれます。
情報漏洩・サイバー攻撃対応マニュアル:
個人情報の漏洩やサイバー攻撃が発生した際の手順を定めたものです。被害範囲の特定、システムの隔離・復旧、個人情報保護委員会への報告(72時間以内)、顧客への通知などが含まれます。
感染症・社会情勢危機対応マニュアル:
パンデミックや大規模な社会不安が発生した際の事業継続と従業員保護に関する手順書です。テレワーク対応、出張制限、感染者発生時の対応などが含まれます。
地政学リスク対応マニュアル:
海外拠点を持つ企業向けに、政治的混乱・紛争・経済制裁などが発生した際の対応を定めたものです。現地従業員の安全確保や事業の撤退・継続判断の基準などが含まれます。
不審者・安全対応マニュアル:
施設への不審者侵入、脅迫、テロなどへの対応手順書です。従業員の安全確保、警察・行政への通報フロー、施設の封鎖手順などが含まれます。
不祥事・SNS炎上などの広報対応マニュアル:
企業の不祥事や従業員の問題行動、SNS炎上などの際に広報担当者が取るべき行動を定めたものです。声明文の作成フロー、メディア対応、社内の情報管理などが含まれます。詳細は本記事後半の「広報向け危機対応マニュアル」のパートで解説します。
危機対応マニュアルとBCP・SNSガイドラインの違い【比較表】
危機対応マニュアルと関連する主要な文書との比較を以下に示します。

これらの文書は互いに独立したものではなく、連携させることで実効性を持ちます。SNSガイドラインは危機対応マニュアルの「炎上予防」の側面を担い、コンプライアンスマニュアルは不祥事が危機として顕在化する前の予防として機能します。
危機対応マニュアルの作り方|盛り込む13項目と作成7ステップ
危機対応マニュアルに盛り込む13の項目
一般的な危機対応マニュアルに含まれる主要項目は以下の通りです。
1. 目的と基本方針:マニュアルの作成目的と、企業の危機管理における基本的な考え方
2. 危機の定義と種類:自社が想定する「危機」の定義と、対象とするリスクの分類
3. 対応体制と役割分担:危機対策本部の設置要件、構成メンバーと各役割の定義
4. 連絡フローと連絡先一覧:事案発生から報告・連絡のルート、社内外の連絡先一覧
5. リスクレベルの判定基準:危機の深刻度を判定するための基準(レベル1〜3など)
6. 初動対応の手順:事案発覚から最初の数時間に行うべき行動リスト
7. 情報収集と事実確認の方法:正確な情報を収集するための手順とチェックリスト
8. 社内・社外への情報発信ルール:発表のタイミング、発表内容の承認プロセス
9. メディア対応の手順と想定Q&A:記者対応の基本姿勢、想定される質問と回答例
10. SNS・デジタル対応の手順:SNS炎上発生時の対応フロー
11. 記録と報告の義務:対応の記録方法、行政機関への報告義務と期限
12. 回復・収束後の対応:再発防止策の策定・公表フロー
13. マニュアルの見直し・更新ルール:定期見直しの時期と担当者
全社の危機対応マニュアル作成の7ステップ
危機対応マニュアルは、リスクの洗い出しから訓練・見直しまでの7つのステップで作成します。
Step1:リスクの洗い出しと優先順位付け
自社が直面しうるリスクを網羅的に洗い出します。業種・業態、規模、拠点の場所、取り扱う情報・製品・サービスの性質などを踏まえて検討します。洗い出したリスクは「発生可能性」と「影響の深刻度」の二軸で評価し、対応の優先度を決定します。
Step2:対応体制の設計
危機が発生した際の役割分担を決定します。危機対策本部のメンバー構成、代行者(担当者が不在の場合の後任)、外部専門家(弁護士・PR会社・専門コンサルタント)との連携方法も定めます。
Step3:対応フローの作成
リスクの種類ごとに、発生から収束までの対応手順をフローチャートで整理します。「誰が、いつ、何をするか」を具体的に記述し、曖昧さを排除します。
Step4:想定Q&Aの作成
メディアや顧客から想定される質問と回答例を作成します。「発表できること」「調査中として回答するもの」「発表できないこと」を事前に整理しておくことで、有事の際の発言のブレを防ぐことができます。
Step5:関係者によるレビューと承認
作成したマニュアルは、広報・法務・経営トップ・現場担当者などが確認し、実態に即した内容かを検証します。
Step6:周知・教育・訓練
マニュアルを完成させた後、関係者全員に内容を共有します。定期的な研修や模擬訓練(シミュレーション)によって、内容を「知っている」だけでなく「行動できる」状態とすることが求められます。
Step7:定期的な見直しと更新
最低でも年1回を目安にマニュアルを見直し、組織変更、法改正、社会情勢の変化などを反映して更新します。
公的機関の危機対応マニュアルテンプレート・参考資料5選
参照可能な公的機関・信頼性の高い機関が提供するマニュアルテンプレートおよび参考資料を以下に示します。
内閣府防災担当「事業継続ガイドライン(令和5年5月改定)」:
企業のBCPに関する包括的なガイドライン
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/sk_04.html
日本経済団体連合会(経団連)「地震対策をはじめとする危機管理の社内マニュアル(サンプル)」:
企業向け危機管理マニュアルの雛形
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2003/070/sample.pdf
厚生労働省「危機管理対策マニュアル策定指針」:
水道事業者向けではあるが、指針の考え方は一般企業の参考にもできます
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kikikanri/sisin.html
中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針(第3版)」:
中小企業向けのBCP策定に関する指針
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
文部科学省「学校の危機管理マニュアル作成の手引」:
教育機関向けですが、組織的な危機管理の参考資料として活用できます
広報向け危機対応マニュアルとは|必要な場面と記載すべき項目
広報対応が必要となる7つの危機の場面
本パートでは、企業の不祥事やSNS炎上など、特に広報対応が必要となる危機における専門的なマニュアル(以下「広報的危機対応マニュアル」)について解説します。
広報的危機対応マニュアルが必要となる場面は、自然災害対応のような物理的な危機対応とは異なります。
対象となる主な場面は以下の通りです。
- ●製品の欠陥・リコールが発生し、消費者への謝罪・説明が必要な場合
- ●従業員やアルバイトによるSNS上の不適切投稿が拡散した場合
- ●企業の不正・コンプライアンス違反が内部告発やメディアで明らかになった場合
- ●企業公式SNSアカウントでの不適切投稿・誤投稿が発生した場合
- ●経営者・役員の不適切な発言や行動が問題となった場合
- ●誹謗中傷・風評被害が急拡大している場合
- ●重大な事故が発生し、メディアからの問い合わせが集中した場合
これらの状況においては、初動・誠実さ・情報の一貫性が、その後の企業イメージを左右します。
広報向け危機対応マニュアルに盛り込む13の項目
広報的危機対応マニュアルに含まれる主要項目は以下の通りです。
1. マニュアルの目的と適用範囲:
対象とする危機の種類と、対象者の範囲を明示する
2. 危機レベルの判定基準:
事案の深刻度に応じた対応レベル(例:レベル1〜3)の定義と、各レベルで取るべき対応のガイドライン
3. 対応体制と役割分担:
危機管理責任者(最終決定者)、広報担当(対外発信の一元管理者)、法務担当(法的リスクの評価・声明の確認)、現場担当(事実確認・情報収集)、外部専門家(PR会社・弁護士)との連携ルール
4. 社内連絡フローと連絡先一覧:
事案発覚者→直属上司→部門長→広報責任者→経営トップへの報告ライン、第一報の時間目標(1時間以内)
5. 初動対応チェックリスト:
事案発覚直後に確認すべき事項のリスト
6. 事実確認の手順:
信頼できる情報源の特定方法、事実と憶測を分離するための確認プロセス
7. 情報発信のルールと承認フロー:
発表タイミングの判断基準、プレスリリース・声明文の作成ガイドライン、承認者の確定と承認フロー、「発表できること」「発表できないこと」の判断基準
8. メディア対応ガイドライン:
取材対応の基本姿勢、記者会見開催の基準と準備手順、想定Q&Aリスト
9. SNS・デジタル対応:
SNS炎上発生時の初動フロー、公式SNSアカウントの対応ルール、モニタリング体制と報告フロー
10. 顧客・取引先への対応:
問い合わせ窓口の設置、対応トークスクリプトの例示
11. 記録・報告の義務:
対応の記録方法、法令上の届出義務と期限
12. 収束判断と事後対応:
危機の収束基準、再発防止策の公表フロー
13. マニュアルの管理・更新ルール:
改訂履歴の管理、定期見直しのスケジュール
見落とされがちな6つの項目|個人SNS・沈黙期間・収束基準
一般的な危機対応マニュアルには盛り込まれることが多い一方で、広報的危機対応マニュアルでは見落とされがちな項目を以下に示します。
役員・経営者の個人SNS利用に関するルール:
経営者個人のSNS発言が企業の危機をさらに悪化させるケースがあります。役員・経営者向けのSNS利用ルールは、マニュアルに明記すべき事項のひとつです。
外部パートナー(代理店・インフルエンサー等)への指示ルール:
コンテンツ制作・SNS運用を外部に委託している場合、危機発生時に「外部のアカウントはどうするか」「代理店への指示はどのルートで行うか」を定めておく必要があります。
「沈黙期間」の定義:
炎上発生直後、事実確認が完了するまでの間、公式コメントを出さない判断をする場合があります。この「沈黙期間」の最大時間(例:最大2時間)と、その間に行うべき行動を定めておくことで、「対応が遅い」という批判への対処方針が明確になります。
二次炎上リスクへの対処:
炎上対応の発表や謝罪文が、新たな批判を招くケースがあります。発表内容を公開する前に、複数の視点から内容を検証するプロセスを組み込むことが有効です。
対応終了の判断基準:
「いつをもって危機対応を終了とするか」の基準が不明確なマニュアルが多く見受けられます。SNSでの言及量の推移、メディア露出の減少、顧客問い合わせ件数の変化などを基準として定めておくことで、担当者の長期的な疲弊を防ぐことができます。
広報担当者のメンタルヘルスケア:
危機対応は担当者への精神的負荷が高い業務です。長期にわたる対応時の交代制の仕組みや、対応終了後のデブリーフィング(振り返り)の実施を盛り込んでおくことが、組織の持続性の観点から有効とされています。
広報向け危機対応マニュアルの作り方と対象者の設定
広報部門が押さえる作成の6ステップ|全社版との違い
全社版の危機対応マニュアルの作成をベースに、広報が担う対外発信部分を具体化する手順です。
- 目的と適用範囲の明確化:
マニュアルの目的は、有事の際に広報担当者が役割を明確に把握した上で行動できる状態を整えることです。どの部署が主管し、どの範囲の事案を対象とし、誰が利用するのかを冒頭に明記します。
- 社内の連携体制の設計:
広報部門単独での危機対応には限界があります。法務・人事・現場・経営トップとの連携体制を設計し、役割分担を確定させます。「最終決定者は誰か」「決定者が不在の場合の代行者は誰か」を明確にしておくことが重要です。
- リスクシナリオを想定したフローの作成:
「SNS炎上が発生した」「メディアから取材依頼が来た」「内部告発が行われた」など、具体的なシナリオを想定して、各シナリオに対する対応フローをフローチャートで整理します。「誰が、いつ、何をするか」を具体的に記述することで、有事における実用性が高まります。
- 発信可能な情報の事前整理:
法的リスクや事実確認中の事項について、何を発表できて何は発表できないかを法務と協議の上で整理します。「現在調査中です」「詳細は確認でき次第お知らせします」など、適切な表現のひな形を用意しておくことが有効です。
- 承認フローの簡略化:
危機対応においては迅速な意思決定が求められます。複数の上長を経由する多段階の承認プロセスは対応の遅延につながります。危機時には「速やかな承認のための特例ルート」を定め、必要最低限の承認者による迅速な決裁を可能にします。
- 想定Q&Aの整備:
記者会見や取材、顧客問い合わせなどで想定される質問と回答例を事前に作成します。Q&Aは実際の危機対応の経験を踏まえて継続的に更新することが求められます。
マニュアルの対象者はどこまで含めるべきか
広報的危機対応マニュアルの対象者は、広報担当者のみに限定することは適切ではありません。
以下の範囲を対象者として想定することが望ましいとされています。
主要な対象者:
- ●広報・PR担当者(マニュアルの主要利用者)
- ●広報部門の責任者・管理職
- ●経営幹部(社長・役員)
重要な関連担当者:
- ●法務担当者(声明文の確認、法的リスク評価)
- ●人事・コンプライアンス担当者(内部調査、当事者対応)
- ●IT・システム担当者(情報漏洩・サイバー攻撃時の対応)
- ●カスタマーサポート担当者(顧客問い合わせ対応)
- ●各部門の責任者(事実確認・情報収集の主体)
周知すべき対象者:
- ●全従業員(特に「有事の際には個人としての発言・SNS投稿を控える」というルールの周知)
- ●外部パートナー・代理店(委託業務がある場合)
対象者の範囲が広くなるほど、マニュアルの内容を「全員に伝えるべき基本ルール」と「担当者向けの詳細手順」に分けて構成することが有効です。
作って終わりにしない|マニュアルを形骸化させない運用方法
マニュアルが放置・形骸化する5つの原因
マニュアルを作成しても、実際の危機時に使われなかったという事態が発生することがあります。
その主な原因は以下の通りです。
作成後の共有・周知が不十分:
完成したマニュアルを保存するだけで、関係者への共有・説明が行われていないケースです。マニュアルは存在するだけでは機能しません。
内容が複雑すぎて実用性が低い:
専門用語が多く、分量が膨大で、有事の際にどこを参照すればよいか判断できないマニュアルは使われなくなる傾向があります。実用性を重視した簡潔な記述が求められます。
訓練・演習が行われていない:
マニュアルの内容を一度も演習した経験がない場合、実際の危機時に行動に移せないケースが生じます。
更新が止まっている:
担当者の異動、組織変更、連絡先の変更などによって内容が実情と乖離し、「このマニュアルは現状に合っていない」という認識から参照されなくなるケースがあります。
「自分には関係ない」という意識:
マニュアルの対象者が広報部門に限定されている場合、他部署の担当者が内容を把握しないまま放置されることがあります。
マニュアルの見直し・更新頻度はどのくらいが適切か
ニュアルは最低でも年1回の定期見直しが求められます。組織変更・人事異動が多い企業では半年に1回が望ましいとされています。
臨時更新が必要なタイミング:
- ●実際に危機対応を経験した直後(対応の振り返りを踏まえた改善点を反映する)
- ●大きな組織変更や担当者の異動があった場合
- ●法令改正(個人情報保護法の改正など)があった場合
- ●社会情勢の変化により新たなリスクが顕在化した場合
運用フロー:マニュアルの見直しは以下のサイクルで行うことが推奨されます。
- 定期レビュー(年1回):
マニュアル管理者が内容全体を確認し、更新要否を判断する - 訓練後の改訂:
炎上防災訓練や模擬演習で確認された課題・不足点をマニュアルに反映する - インシデント後の改訂:
実際の危機対応後に振り返りを行い、マニュアルを改訂する - 改訂履歴の管理:
変更内容・日時・担当者を記録し、「現行版」が明確にわかるようにする
マニュアルを組織に定着させる4つの方法
マニュアルの内容を組織に定着させるための取り組みとして、以下が有効とされています。
定期研修の実施:
年1〜2回程度、マニュアルの内容を基にした研修を実施します。新入社員・新任管理職を対象とした研修も設けることで、組織全体への浸透を図ります。
炎上防災訓練(模擬演習)の実施:
実際の炎上シナリオを用いた模擬訓練は、マニュアルの内容を「知っている」状態から「行動できる」状態へと転換するために有効な手段です。リアルなシナリオに基づく演習によって、担当者が取るべき行動を体験として習得できます。
マニュアルへのアクセス性の確保:
マニュアルはすぐに参照できる場所に置くことが求められます。社内ポータル・イントラネット上の目立つ場所に掲載するとともに、印刷版も手元に置いておくことが推奨されます。
経営幹部の理解と関与:
経営トップがマニュアルの重要性を認識し、研修や訓練に参加することで、組織全体へのマニュアル定着が促進されます。
訓練と研修で実効性を高めるPDCAサイクル
マニュアルの有効性を高めるためには、以下のアプローチが有効とされています。
教育・研修での気づきをマニュアルに反映する:
研修において「このシナリオではこの手順では対応しきれない」「この連絡先が古い」「このケースが想定されていない」などの指摘が得られた場合、速やかにマニュアルに反映します。研修はマニュアルの実効性を検証する機会でもあります。
模擬訓練(炎上防災訓練)による実践力の向上:
リアルな炎上シナリオを用いた模擬訓練においては、参加者が実際に「判断する・発信する・連絡する」という体験を通じてマニュアルの実効性を確認できます。訓練で確認された課題はマニュアルの改善点として反映します。
PDCAサイクルの継続:
以下のサイクルを繰り返すことで、マニュアルの実効性を継続的に向上させることができます。
マニュアル作成・更新 → 研修・教育 → 気づき・課題の発見 → 模擬訓練(炎上防災訓練) → 実践的な課題の確認 → マニュアルへの反映・更新 →(繰り返す)
このサイクルを継続することで、マニュアルは形式的な文書から実際の危機時に機能する行動指針へと発展します。
危機対応マニュアルは自社作成と外部依頼のどちらを選ぶべきか
マニュアルの作成には、自社で内製する方法と、外部の専門家に依頼する方法があります。
それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
自社で内製する場合のメリット・デメリット
自社でマニュアル作成するメリット
- ●自社の業種・組織構造・文化に即した内容にできる
- ●担当者がマニュアル作成を通じて危機管理の知識・意識を高めることができる
- ●外部委託に比べてコストを抑えることができる
- ●社内の事情を熟知した上での作成となるため、実情に合った内容になりやすい
自社でマニュアル作成するデメリット
- ●担当者の知識・経験に依存するため、重要な視点・項目が抜け落ちるリスクがある
- ●「自社では起きないだろう」というバイアスが入りやすく、リスクを過小評価する可能性がある
- ●実際の炎上対応経験がない場合、実践的な内容にならないケースがある
- ●作成に多くの時間・工数がかかる
- ●定期的な更新・維持管理を継続するためのリソースが必要となる
外部の専門家に依頼する場合のメリット・デメリット
外部の専門家に依頼してマニュアル作成するメリット
- ●豊富な実績・事例に基づいた実践的な内容のマニュアルを作成できる
- ●自社では気づきにくいリスクや盲点を指摘してもらえる
- ●業界トレンドや最新の法規制を踏まえた内容にできる
- ●作成後の訓練・教育プログラムとセットで提供される場合、定着支援まで一貫して受けられる
- ●有事の際の相談体制を事前に構築できる
外部の専門家に依頼してマニュアル作成するデメリット
- ●費用が発生する
- ●自社への理解が不十分な状態では実情に合わないマニュアルになるリスクがあり、十分なヒアリングが必要となる
- ●外部依存が強まることで、社内担当者の危機管理リテラシーの向上が進みにくい場合がある
よくある質問
危機対応マニュアルについて、広報担当者からよく寄せられる質問と回答をまとめます。
Q1. 危機対応マニュアルとBCP(事業継続計画)は何が違いますか?
危機対応マニュアルは「危機発生時に誰が何をするか」という行動指針を定めた文書であるのに対し、BCPは「重要業務をいかに継続・早期復旧させるか」に主眼を置いた計画です。両者は補完関係にあり、連携させて整備することが望ましいとされています。
Q2. 中小企業にも危機対応マニュアルは必要ですか?
中小企業にも危機対応マニュアルは必要です。SNSの普及により、炎上や風評被害のリスクは企業規模を問わず存在します。帝国データバンクの2025年調査では中小企業のBCP策定率は17.1%にとどまっており、整備の遅れ自体がリスクとなっています。まずは連絡体制と初動対応フローなど、最小限の項目から整備を始めることが推奨されます。
Q3. マニュアルはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
最低でも年1回、組織変更や人事異動が多い企業では半年に1回の見直しが推奨されます。また、実際に危機対応を経験した直後や法令改正時には、定期見直しを待たずに臨時更新を行うことが望ましいとされています。
Q4. SNS炎上が発生した場合、最初の1時間で何をすべきですか?
まず事実確認と社内の第一報連絡を優先します。具体的には、問題となっている投稿・拡散状況の記録(スクリーンショット等)、事実関係の確認、報告ラインに沿った関係者への連絡です。感情的な反論や説明なしの投稿削除は事態を悪化させるため避けるべきとされています。
Q5. マニュアル作成を外部に依頼する場合、どのような会社を選ぶべきですか?
SNS炎上や危機管理広報の実務支援の実績が豊富であること、マニュアル作成だけでなく研修・訓練による定着支援まで一貫して提供できること、有事の際の相談体制があることが選定のポイントとなります。
まとめ:マニュアルは「作ること」ではなく「機能させること」がゴール
危機対応マニュアルは、危機発生時に組織が冷静かつ迅速に、一貫した対応を行うための行動指針です。本記事で解説した通り、SNSの普及により炎上・レピュテーションリスクは業種や企業規模を問わず高まっており、特に広報担当者にとってマニュアルの整備は必須の備えとなっています。
一方で、マニュアルは作成しただけでは機能しません。関係者への周知、炎上防災訓練などの模擬演習、定期的な見直しというPDCAサイクルを継続することで、初めて実際の危機時に機能する行動指針となります。
クラッドでは、SNS炎上後の危機管理広報コンサルティング、広報的危機対応マニュアルの作成支援、炎上防災訓練を通じたマニュアルの定着支援、SNSガイドラインや広報ガイドラインなどの各種ガイドライン策定を提供しています。
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