誹謗中傷とは?意味・定義と「批判」との違い

誹謗中傷とは、特定の人物(組織を含む)に対して、侮辱や嫌がらせ、デマ情報、嘘などを用いて、相手の名誉や人格を傷つける一連の行為のことです。「誹謗中傷」は「誹謗」と「中傷」という異なる言葉を合わせた表現で、「誹謗」は相手の悪口を言うこと、「中傷」は根拠がないことで相手の名誉を傷つけることを指します。いずれも共通しているのは「相手の名誉を侵害する」という点であり、法律上は名誉権の侵害に該当する可能性があります。

誹謗中傷は法律用語ではありませんが、SNS(X・Instagram・Facebookなど)やネット掲示板、口コミサイトを通じて間接的に行われるケースが主流になっています。被害を受ける対象は個人に限らず法人も含まれ、著名人・一般人を問わず誰でも被害者になり得ます。批判との線引きは難しいとされますが、一般に「悪意の有無」や「虚偽の有無」によって区分されます。相手の行動や意見に対して異なる意見を主張する「批判」と異なり、誹謗中傷は相手の人格や外見への悪口、虚偽の発言を伴う点に特徴があります。

参照元:株式会社クラッド|コラム「誹謗中傷とは?SNSでの事例やどこからが罪となるのか解説」
https://clad.inc/socialrisk/column/230301

増えている背景|相談件数は年6,000件超で高止まり

会社や従業員に関する誹謗中傷が増加している背景には、スマートフォンの普及により誰もが瞬時に情報を発信・拡散できるようになったこと、匿名で投稿できるサービスが増えたこと、就職・転職時に企業の口コミを確認する文化が定着したことなどがあります。

投稿者は必ずしも社外の第三者に限られません。現職の社内関係者、退職した元従業員、外部の取引先など、社内外のさまざまな立場の人物が投稿主体となり得ます。その内容には、事実に基づく不満だけでなく、第三者による事実無根の書き込みや、伝聞・憶測に基づく不正確な情報も含まれます。

相談件数の推移からも、その深刻さがうかがえます。総務省の委託事業である違法・有害情報相談センターが受け付けた相談件数は、令和6年度に6,403件と2年連続で6,000件を超え、制度発足当初の平成22年度(1,337件)から大きく増加したまま高止まりしています。相談者が望む対応としては「インターネット上の情報を削除したい」が全体の約6割にあたる3,777件で最多、「発信者の特定方法を知りたい」が1,571件でした。

参照元:総務省「令和6年度 インターネット上の違法・有害情報対応 相談業務等の請負 報告書(概要版)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001009571.pdf

 

また、法務省の人権擁護機関が新規に救済手続を開始したインターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件は、令和6年に1,707件と高水準で推移しています(令和5年は1,824件)。

参照元:法務省「令和6年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00252.html

役員・社員が標的になる理由|誰が・どこに・何を書いているのか

役員や社員に対する誹謗中傷は、偶発的に起こるものではなく、書き込まれる動機・投稿者の立場・書き込まれる場所に一定の傾向があります。

なぜ経営層が標的になりやすいのかという理由から、誰が投稿しているのか、どのプラットフォームに書き込まれるのか、そして実際にどのような内容が書かれるのかまでを順に整理します。自社がどの媒体を優先的に監視すべきかを判断する材料になります。

書かれる理由|経営判断や人事への不満が個人攻撃に変わる

役員に対する誹謗中傷が書かれる理由は、役員が会社の意思決定を担う象徴的な存在であることに起因します。経営判断や人事、組織再編、労働条件の変更などは、従業員や取引先に直接的な影響を及ぼすため、これらへの不満が経営トップである役員個人へ向けられやすい構造があります。

具体的には、次のような動機が挙げられます。会社の方針や経営判断への反発、リストラや降格・異動など人事上の処遇への不満、労働環境や待遇に対する不平、退職に至った経緯への恨み、取引条件をめぐるトラブル、あるいは個人的な怨恨などです。役員は権限が集中している分、批判や不満の「受け皿」になりやすく、会社への不満が個人攻撃という形で表面化するケースが少なくありません。

書いているのは誰か|現職・元従業員・取引先・株主

役員に対する誹謗中傷の投稿者は、立場によっておおむね次のように分類できます。

現職の従業員は、社内の労働環境や経営方針への不満から、匿名で投稿するケースがあります。退職した元従業員は、退職の経緯や処遇への不満を背景に、在職中に得た内部情報を交えて投稿する傾向があります。取引先や元取引先は、取引条件や契約をめぐるトラブルが動機となることがあります。顧客は、商品・サービスへの不満が経営者批判に発展する場合があります。競合他社の関係者や、直接の利害関係を持たない匿名の第三者が、伝聞や憶測に基づいて書き込むこともあります。上場企業の場合は、株主・投資家がIRや株価への不満から経営陣を非難する例もみられます。

書かれる場所|SNS・匿名掲示板・転職口コミ・株式掲示板

誹謗中傷が書き込まれる主な場所は、以下のとおりです。

  • ・X(旧Twitter):
    リアルタイムの拡散力が最も強く、炎上の発端になりやすい
  • ・Instagram・Facebook:
    実名制のFacebookでは組織的な批判が広がりやすい
  • ・5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)・爆サイなどの匿名掲示板:
    匿名性が高く、企業や経営者に関する悪質な風評が集積しやすい
  • ・転職・就職の口コミサイト(OpenWork、転職会議など):
    現職・退職者の投稿を通じて、経営陣や社風への評価が書き込まれる
  • ・Googleマップ(Googleビジネスプロフィール)の口コミ:
    会社や店舗への低評価とともに、経営者やスタッフへの言及がなされることがある
  • ・Yahoo!ファイナンス掲示板などの株式関連掲示板:
    上場企業では投資家による経営陣批判が集中しやすい
  • ・個人ブログ・まとめサイト:
    SNSや掲示板の情報がまとめられ、検索結果に長期間残り続けるリスクがある

媒体ごとの特徴|X・Instagram・Facebook・掲示板の違い

誹謗中傷は、書き込まれるプラットフォームによって内容や広がり方の特徴が異なります。

  • X(旧Twitter
    リアルタイム性とリポスト(リツイート)機能による拡散力が最も高く、炎上の主戦場となります。短文で感情的な投稿が拡散しやすく、インフルエンサーの拡散によって数時間で数万件規模の言及に発展することもあります。
  • InstagramTikTok
    画像・動画が中心で、視覚的なインパクトから感情的な反応を引き起こしやすいのが特徴です。従業員の不適切動画(いわゆるバイトテロ)の投稿・拡散経路として機能することもあります。
  • Facebook
    実名制のため信憑性が高く、企業ページのコメント欄への集中的な批判や、組織内部からの内部告発的な投稿が炎上のきっかけになることがあります。
  • 転職・就職の口コミサイト(OpenWork、転職会議、ライトハウスなど)
    現職・退職者が「社風」「経営陣」「労働環境」を評価する構造上、役員個人や経営方針への批判が書き込まれやすい場です。閲覧者が求職者中心であるため、採用への影響が大きくなります。
  • 5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)・爆サイなどの掲示板
    完全匿名で投稿できるため、誹謗中傷や悪質な風評が集積しやすく、「炎上の震源地」になることがあります。ここで生まれた情報がXやまとめサイトを経由して拡散するケースが多くみられます。

書かれる内容|ハラスメント・不正・経歴詐称・デマ

役員に対する誹謗中傷としてよくみられる内容には、次のようなものがあります。パワーハラスメント・セクシュアルハラスメントなど、ハラスメント行為があったとする書き込み、経営能力や資質を否定する内容、金銭の私的流用や不正会計といった不正を示唆する内容、学歴・経歴の詐称を主張する内容、私生活やスキャンダルに関する内容、そしてこれらを事実であるかのように装った事実無根のデマなどです。

これらは、事実に基づくものと、まったくの虚偽であるものが混在している点に注意が必要です。事実を摘示して社会的評価を下げる書き込みは名誉毀損罪、事実を示さずに人格を攻撃する書き込みは侮辱罪の問題となりえます。

 

企業への影響と実際の事例|検索・採用・株価への波及

役員個人に向けられた誹謗中傷は、本人の名誉の問題にとどまらず、検索結果・採用・株価・取引関係といった企業活動の広い範囲に波及します。ここでは、影響がどこまで広がるのか、対象が会社・社員・役員のいずれであるかによって被害の性質がどう変わるのかを整理したうえで、実際に社会問題となった事例を紹介します。

影響範囲|サジェスト汚染から家族への二次被害まで

役員に対する誹謗中傷は、個人の問題にとどまらず、企業全体へ波及します。
主な影響範囲は次のとおりです。

検索エンジンで役員名や企業名を検索した際に、ネガティブな情報がサジェスト(検索候補)や検索結果に表示され、長期的にブランドイメージを損ないます。採用活動においては、応募者が経営陣の評判を確認して応募を控えるなど、人材獲得に影響します。
上場企業では、経営陣への不信が株価や資金調達に波及することもあります。取引先が経営者の評判を懸念し、取引継続の判断に影響が及ぶ場合もあります。さらに、役員個人だけでなく、その家族や関係者にまで二次的な被害が広がるケースもあります。

会社・社員・役員で影響はどう違うのか

誹謗中傷の被害は、対象が「会社」「社員」「役員」のいずれであるかによって、影響の性質が異なります。

  • 会社(法人)が対象の場合
    ブランドイメージの毀損、売上の減少、採用活動への悪影響、投資家からの信頼低下といった、事業活動全般への影響が中心となります。ネガティブな口コミは消費者の購買意欲を下げ、特にネットで商品を調べてから購入する消費者が増えている現在、その影響は無視できません。

 

  • 社員(従業員)が対象の場合
    個人の名誉やプライバシーの侵害が中心となり、精神的苦痛や職場での人間関係への影響が生じます。特定の個人が標的にされることで、住所や勤務先などが特定される「特定・晒し」の二次被害に発展するリスクもあります。

 

  • 役員が対象の場合
    個人の名誉侵害と、企業のレピュテーション(評判)低下の両面に影響が及びます。経営トップは会社の「顔」であるため、役員個人への攻撃がそのまま企業全体の信用問題に直結し、IR・広報・法務が連携した組織的な対応が求められる点が特徴です。

リアリティ番組出演者への中傷(2020年)|法整備が進む契機に

2020年には、あるリアリティ番組の出演者がSNS上で多数の誹謗中傷を受けた後に亡くなった事案が大きく報じられました。
この事案は、匿名の投稿者による集中的な中傷が個人に深刻な被害をもたらすことを社会に強く印象づけ、後の侮辱罪厳罰化(2022年)や発信者情報開示制度の見直し(2022年)といった法整備が進む契機の一つとなりました。

企業・経営者への事実無根の書き込み|検索結果への残存と賠償請求

企業・経営者に関しても、事実無根の書き込みが長期間放置され、検索結果に残り続けたことでブランド毀損や採用難につながった事例、匿名掲示板での中傷が発信者情報開示請求を経て損害賠償請求に至った事例などが報告されています。
過去に法務省の有識者検討会でも、インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題が整理されています。

参照元:公益社団法人 商事法務研究会「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ」(令和4年5月)
https://www.shojihomu.or.jp/public/library/728/report202205.pdf

監視・早期発見の方法|エゴサーチ・AI監視・有人監視の比較

誹謗中傷への対応は、書き込みをどれだけ早く見つけられるかで結果が大きく変わります。ここでは、自社で行うエゴサーチ、監視ツール、専門オペレーターによる有人監視という3つの方法を比較し、役員対策を目的にサービスを選ぶ際の判断軸、代表的なサービス、さらに監視を行ううえで法的に注意すべき点までを解説します。

探し方は3つ|自社監視・監視ツール・有人監視代行の長短

誹謗中傷の書き込みを把握する方法は、大きく次の三つに分けられます。

  • 自社の人力による監視(エゴサーチ)
    自社名・役員名・商品名などのキーワードを、検索エンジンや各SNSで定期的に検索する方法です。コストはかかりませんが、担当者の作業負荷が大きく、夜間・休日の監視や網羅的なチェックには限界があります。

 

  • 監視ツールの利用
    あらかじめ登録したキーワードをもとに、SNSや掲示板の投稿を自動収集・分類する方法です。24時間365日、大量の投稿をリアルタイムで処理でき、比較的低コストで導入できますが、文脈の理解や隠語への対応に弱く、見落としや誤判定が起こることがあります。

 

  • 監視代行サービス(有人監視)の利用
    専門オペレーターが目視でリスク投稿を判別する方法です。画像や動画など監視ツールでの判断が難しい投稿もリスクの確認が可能です。人員が必要となるため、ツール型監視に比べてコストは高くなる傾向があります。近年は、AIツールによる一次スクリーニングと有人監視を組み合わせたハイブリッド型が主流です。

 

参照元:株式会社クラッド「SNS監視とは?概要、注意点、監視サービス13選」
https://clad.inc/socialrisk/column/260330

サービスの選び方|役員対策で比較すべき4つの視点

役員の誹謗中傷対策を目的として風評監視サービスを選ぶ際は、次のポイントを軸に比較・検討することが有効です。

  1. Point 1|監視対象プラットフォームの網羅性:
    XやInstagramなどのSNSに加えて、5ちゃんねる・爆サイなどの匿名掲示板、転職口コミサイト、Googleマップ、株式関連掲示板など、役員への中傷が集まりやすい媒体をカバーしているかカバーしているかチェックします。
  2. Point 2|検知スピードとアラート通知の仕組み:
    炎上対応は初動の数時間が重要とされるため、リスク投稿の検知から担当者への通知までの速さが求められます。
  3. Point 3|炎上発生時のサポート体制:
    検知・通知だけでなく、初動対応の助言や沈静化のサポート、弁護士など専門家との連携ができるかどうかも見落とせないポイントです。
  4. Point 4|レポーティングの内容・頻度と費用対効果:
    提供されるレポーティングの内容と頻度、そして価格・費用対効果が適切か(自社の要件に合致しているか)を総合的に判断します。

役員の誹謗中傷対策サービス5選|監視範囲と支援体制で比較

役員・企業の誹謗中傷対策では、SNSだけでなく5ちゃんねるやブログ、まとめサイトまで含めた監視対象の広さ、検知の精度とスピード、そして発見後の対応支援まで一貫して提供されるかが、押さえるべき機能面のポイントになります。以下に代表的なサービスを紹介します。

  1. AI-miningAIマイニング)/ 株式会社クラッド
    X・Instagram・YouTube・5ちゃんねる・Googleマップ・口コミサイトなど、国内最高水準の監視対象メディアに対応したリスク検知ツールです。緊急時には専門コンサルタントによる沈静化サポートが追加料金不要で受けられ、上限300万円の炎上保険も標準付帯します。

AI-mining

 

  1. 有人監視代行サービス「炎上リスクモニタリング」 株式会社クラッド
    AIモニタリングツールと専門スタッフによる有人監視を組み合わせたハイブリッド型の代行サービスです。リスク情報は即時アラートで通知されるので、深夜・休日問わずに早期に発見した情報を把握することができます。

炎上リスクモニタリング

 

  1. Webリスクモニタリング 株式会社エルテス
    ツールと専門スタッフのチェックを組み合わせた投稿監視サービスで、SNSから掲示板まで幅広く対応し、リスクをダッシュボードで可視化します。

https://eltes.co.jp/service/web-risk-monitoring/

  1. インターネットモニタリング アディッシュ株式会社
    Webサービスやコメントを24時間365日体制で目視監視し、テキストに加え画像にも対応します。

https://adish.co.jp/service/internet-monitoring/

  1. SNSリスク即時検知サービス(ネットパトロール)/ イー・ガーディアン株式会社
    AIと人による高精度な監視で、リスク投稿を検知した場合に短時間での報告を実現します。SNS・掲示板・ブログ・レビューサイトなど広範なメディアを網羅します。

https://www.e-guardian.co.jp/service/net-patrol/online-rumor/

監視時の注意点|鍵アカウント・個人情報保護法との関係

企業がSNS・口コミを監視する際は、次の点に配慮する必要があります。監視対象は、原則として一般に公開された投稿(オープンな情報)に限定し、非公開アカウント(鍵アカウント)や限定公開投稿は対象としません。特定個人の投稿履歴を過度に収集・分析することは、個人情報保護法の観点から問題になる可能性があるため、収集したデータの利用目的を明確にし、適切に管理することが求められます。

従業員の個人アカウントを監視する場合は、就業規則やSNSガイドラインで「業務に関連する投稿は公開情報として取り扱う」旨をあらかじめ周知したうえで実施することが重要です。個人情報保護法や情報流通プラットフォーム対処法などの関連法令の遵守を徹底します。

発見後の初動対応|最初の24時間で判断すべきこと

誹謗中傷の投稿を発見してから最初の24時間は、投稿を消すことよりも、状況を正確に把握することを優先します。

この段階で確認すべきことは、次の3点です。

  • ・どこまで広がっているか:
    同じ内容が他のプラットフォームへ転載されていないか、拡散の勢いは増しているか
  • ・誰が書いたか:
    投稿者は社内の人物か、それとも外部の第三者か
  • ・事実が含まれるか:
    まったくの虚偽か、一部に事実が含まれるか

この3点が整理できていない状態で公式に反応すると、訂正のたびに新しい火種をつくることになります。逆に、事実確認が済んでいれば、静観・削除依頼・公式見解の発表のいずれを選んでも、その後の説明に一貫性を持たせられます。

 

そのうえで、対応は次の5つの手順で進めます。

  1. STEP 1|証拠を保全する:
    投稿URL・投稿日時・アカウント名がわかる形で、スクリーンショットや画面録画を取得します。投稿が削除される前に確保することが重要です。
  2. STEP 2|事実確認と分類を行う:
    事実に基づくクレームなのか、事実無根の誹謗中傷なのか、従業員による不適切投稿なのかを見極めます。
  3. STEP 3|対応方針を決める:
    反応すること自体が拡散を助長する場合もあるため、静観するか、公式に対応するかを判断します。
  4. STEP 4|法的手続きの要否を検討する:
    必要に応じて削除依頼・発信者情報開示請求・法的措置を検討し、法務部門や弁護士と連携します。
  5. STEP 5|監視を継続する:
    対応後も、二次拡散や同様の投稿の再発がないかを確認します。

社員の投稿だった場合|特定・弁明・懲戒までの手順

社員による誹謗中傷が発覚した場合は、処分を急がず、次の順序で進めます。

  1. STEP 1|投稿者を特定する:投稿が当該社員によるものであることを、客観的な証拠で確認します。
  2. STEP 2|本人にヒアリングし、弁明の機会を与える:一方的な事実認定は、後日の紛争の原因になります。
  3. STEP 3|投稿の削除を要請する
  4. STEP 4|懲戒処分の要否と程度を検討する:就業規則に基づき、事実認定と手続の適正性を確保したうえで判断します。
  5. STEP 5|再発防止策を実施する:SNSガイドラインの再周知や社内研修を行います。

悪質な場合や被害が大きい場合には、法的措置も選択肢となります。
ただし、処分ありきで進めると、後日その有効性を争われるリスクがあります。

外部の第三者による投稿だった場合の対応

外部の第三者による誹謗中傷が発覚した場合は、まず投稿内容が事実か否かを確認します。

事実無根であれば、次の対応を検討します。

  • ・証拠を保全したうえで、法務部門・顧問弁護士と連携する
  • ・投稿の削除依頼や発信者情報開示請求の要否を検討する
  • ・公式声明で事実関係を否定するかどうかを判断する
  • ・同様の投稿が増えていないか、継続的に監視する

公式声明は事実関係を明確にできる一方で、反応すること自体が拡散を促すこともあります。現時点の拡散規模と、放置した場合の影響を比べたうえで判断してください。

対応で押さえる4点|初動・体制・一貫性・記録

企業が誹謗中傷に対応するうえで押さえるべき点は、次の4つです。

  1. STEP 1|初動の速さと冷静さを両立する:感情的な反論や弁解は二次炎上を招きます。事実と再発防止の意思を簡潔に伝えるのが基本です。
  2. STEP 2|社内の情報共有と役割分担を明確にする:広報・法務・経営陣・カスタマーサポートの役割と権限を、あらかじめ決めておきます。
  3. STEP 3|対応方針に一貫性をもたせる:公式サイト・プレスリリース・SNS公式アカウントなど、発信媒体ごとに誰が何を発信するかを整理します。
  4. STEP 4|記録を保全する:将来の法的措置に備え、投稿と対応の記録を残します。

拡散が続くときの広報対応|問い合わせ窓口と公式見解

拡散が収まらない、あるいは取引先や顧客から問い合わせが届き始めた場合は、監視と削除依頼だけでは追いつきません。

この段階では、次の対応に切り替えます。

  • ・事実関係を整理した公式見解を、自社サイトに掲載する
  • ・問い合わせ窓口を一本化し、担当者ごとに回答が食い違わない状態をつくる
  • ・検索結果にネガティブな情報が定着している場合は、オンライン評判対策を検討する

投稿者の特定や損害賠償請求まで視野に入れる段階では、弁護士への相談が必要になります。

 

どこからが違法になるのか|名誉毀損・侮辱の考え方

「誹謗中傷」は法律上の用語ではありません。ただし、書かれた内容によっては刑事上の犯罪や民事上の不法行為にあたる可能性があります。企業の担当者がすべての要件を判断する必要はありませんが、どの投稿を専門家に相談すべきかを見分けるうえで、大まかな線引きは知っておくと役に立ちます。

判断の分かれ目は、大きく2つです。
ひとつは「具体的な事実を示しているかどうか」です。「あの社長は取引先から金銭を受け取っている」のように、事実を示して社会的評価を下げる書き込みは名誉毀損罪にあたり得ます。書かれた内容が真実かどうかを問わず成立し得る点が特徴です。一方、「無能」といった、事実を示さない人格攻撃は侮辱罪の問題になります。侮辱罪は2022年の改正で厳罰化され、公訴時効も1年から3年に延長されました。

もうひとつは「誰に向けられているか」です。企業や商品について虚偽の情報を流し、信用や業務に支障を与える書き込みは、信用毀損罪・業務妨害罪の対象になり得ます。また、刑事責任とは別に、民事上は損害賠償(慰謝料)を請求できる場合もあります。

実際にどの規定にあたるかは、投稿の文言・前後の文脈・拡散の範囲によって変わります。自社だけで結論を出さず、証拠を保全したうえで弁護士に判断を仰ぐのが安全です。

参照元:e-Gov法令検索「刑法(明治四十年法律第四十五号)」
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

参照元:法務省「侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A」
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00194.html

社員の投稿に懲戒処分はできるのか|有効となる4つの要件

従業員が会社や役員、他の従業員に対して誹謗中傷を行ったことが判明した場合、就業規則に基づく懲戒処分を検討することができます。ただし、懲戒処分が有効と認められるためには、就業規則に懲戒事由と懲戒の種類が明記されていること、処分内容が違反行為の程度に照らして相当であること(相当性)、同種事案との公平性が保たれていること、本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続を経ていることが必要です。

投稿が匿名で行われている場合、まず投稿者が当該従業員であることを客観的な証拠によって特定する必要があります。私生活上の行為や個人アカウントでの投稿については、企業秩序や会社の社会的評価にどの程度の影響を及ぼしたかが問われるため、処分の可否・程度は慎重に判断すべきです。処分を急いで手続を欠くと、後に処分が無効と判断されるリスクがある点に注意が必要です。

投稿の削除と投稿者の特定|自社でできることと弁護士に任せること

投稿の削除も、投稿者の特定も、手段は用意されています。ただし、自社の担当者だけで進められる範囲と、弁護士に任せたほうがよい範囲がはっきり分かれます。通報フォームからの削除依頼までは自社で対応できますが、裁判所への申立てや発信者情報開示請求は、法的な判断と書面の作成を伴うため専門家の領域です。ここでは、その境目がどこにあるのかを中心に、実際の進め方を整理します。

まず試すこと|各サービスの通報フォームから削除を依頼する

多くのSNSや口コミサイトには、規約違反や権利侵害を報告する通報・削除フォームが用意されています。費用も専門知識も要らないため、明らかな権利侵害であれば、まずここから試すのが基本です。

削除が認められるのは、投稿が他人の権利を違法に侵害していると判断される場合です。名誉権・プライバシー権・肖像権などの侵害が明白で、その投稿を放置すべき正当な理由がない、というのが目安になります。「気に入らない」「自社に不利益だ」というだけでは応じてもらえません。事実に基づく正当な批判や、公共性・公益性が認められる論評は、削除の対象になりにくい点にも注意が必要です。

申請の際は、どの投稿が、どの権利を、どのように侵害しているのかを具体的に書きます。投稿URL・投稿日時・アカウント名を控え、スクリーンショットを残しておくと、その後の手続きにもそのまま使えます。

応じてもらえないとき|送信防止措置依頼と裁判所への申立て

通報フォームで削除されない場合の次の手段が、送信防止措置依頼書です。一般社団法人テレコムサービス協会が公表しているガイドラインに沿った業界標準の書式(通称「テレサ書式」)があり、これに沿って依頼すると、プロバイダ側も権利侵害の有無を判断しやすくなります。依頼を受けたプロバイダが権利侵害を認めた場合、または投稿者に照会して7日以内に反論がない場合には、投稿を削除できるとされています。

参照元:一般社団法人テレコムサービス協会「プロバイダ責任制限法 関連情報(ガイドライン等)」
https://www.telesa.or.jp/consortium/provider/

 

それでも削除されない場合は、裁判所に削除仮処分を申し立てることになります。通常の訴訟より短期間で判断が出る手続きですが、申立書の作成や裁判所での説明が必要になるため、ここからは弁護士に依頼するのが一般的です。

投稿者を特定したいとき|発信者情報開示請求の考え方

投稿を消すだけでなく、書いた人物を特定して責任を追及したい場合には、発信者情報開示請求という手続きがあります。サイト運営会社や通信事業者に対して、IPアドレスや契約者の氏名・住所などの開示を求めるものです。

ただし、これは必ず行うべきものではありません。弁護士費用と数か月単位の時間がかかり、権利侵害が明白といえない投稿では開示が認められないこともあります。判断の目安は、損害賠償請求や刑事告訴まで進める意思があるか、そして再発を防ぐために投稿者へ責任を追及する必要があるかです。投稿を消せば足りるのか、特定まで必要なのかを先に整理してください。

なお、根拠となる法律は2025年4月に「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」へ改正され、大規模プラットフォーム事業者には削除対応の迅速化と、運用状況の透明化が義務づけられました。

参照元:総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html

弁護士に相談するタイミングと、事前に準備しておくもの

弁護士に相談すべきなのは、次のいずれかに当てはまるときです。通報フォームでの削除に応じてもらえなかった、投稿者を特定して責任を追及したい、投稿の違法性を自社では判断できない、あるいは投稿が拡散して事業への影響が出始めている。逆に、明らかな規約違反の投稿を1件消したいだけであれば、自社で対応できます。

相談の前に用意しておくとよいのは、投稿のURL・投稿日時・アカウント名・スクリーンショット、書き込みが事実かどうかの社内での確認結果、そして経緯をまとめた時系列のメモです。とくにアクセスログには保存期間があり、時間が経つほど投稿者の特定は難しくなります。相談すると決めたら、早めに動いてください。

参照元:裁判所「発信者情報開示命令申立て」(東京地方裁判所 民事第9部)
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hassinnsya_kaiji/index.html

予防策|SNSガイドラインの策定とリテラシー研修

誹謗中傷や情報漏洩を未然に防ぐには、発生後の対応だけでなく、平時からの予防策が欠かせません。企業が取り組むべき予防策は、次の4つです。ガイドラインを土台に、研修・訓練・チェック体制を積み上げる順序で整備すると定着しやすくなります。

  1. STEP 1|SNS運用ガイドラインを策定する:
    従業員が個人・業務でSNSを利用する際の禁止事項や注意点を明文化し、全社に周知します。
  2. STEP 2|リテラシー研修を実施する:
    何が炎上・情報漏洩・誹謗中傷につながるのかを、具体的な事例を交えて教育します。
  3. STEP 3|炎上の模擬訓練を行う:
    炎上を模擬体験し、迅速かつ的確な火消しの判断を身につけるトレーニングを実施します。
  4. STEP 4|投稿前のチェック体制を整備する:
    公式アカウントの投稿を複数名で確認する仕組みを設け、不用意な投稿を未然に防ぎます。

これらを組み合わせることで、リスクの発生確率と被害規模の双方を抑えられます。

ガイドラインに盛り込む項目|個人アカウントの扱いと投稿前チェック

SNS運用ガイドラインで効くのは、判断に迷いやすい場面を具体的に書いておくことです。業務に関する内容を個人アカウントで発信してよいか、社名や役職をプロフィールに書く場合の注意、社内の写真や画面を投稿する際の確認手順、同僚や取引先について書くときの線引き。抽象的な心構えではなく、「これはやってよい」「これはしない」の形で並べると、現場が実際に使える文書になります。

公式アカウントについては、投稿前に複数名で確認する仕組みを設けます。担当者が1人で運用していると、繁忙期や体調による判断のぶれが、そのまま炎上リスクになります。

参照元:株式会社クラッド|SNS運用ガイドライン作成サービス
https://clad.inc/socialrisk/product/sns_rule/

研修と模擬訓練|「自分ごと化」させる進め方

ガイドラインは、配って終わりにすると読まれません。研修とセットにして、実際に起きた炎上事例を題材に「なぜこの投稿が問題になったのか」を考えてもらう形にすると、定着しやすくなります。

さらに一段進めるなら、炎上を模擬的に体験する訓練が有効です。自社を想定した投稿が拡散していく状況を再現し、広報・法務・経営層がそれぞれ何を判断するかを実際に動かしてみると、平時には見えない連絡経路の穴が見つかります。誹謗中傷の発生そのものを避けきるのは難しいものの、起きたときの被害規模は、こうした備えの有無で大きく変わります。

 

まとめ|監視・初動・予防の3点で企業の信頼を守る

役員や社員への誹謗中傷は、いまや「いつか起きるかもしれない脅威」ではなく、「平時から備えておくべき日常的なリスク」です。
対応の成否を分けるのは、法律の知識よりも、早く見つける体制があるか、発見後の初動が整理されているか、そして再発を防ぐ仕組みが社内にあるかの3点です。削除依頼や投稿者の特定といった法的手続きは、この土台があってはじめて実効性を持ちます。

 

当社クラッドは、サービス開始以来25年以上にわたり、1,500社以上の企業のSNS炎上対策・ソーシャルリスク管理を支援してきました。
IPO準備に伴うSNSリスク対策・レピュテーション対策について、「何から始めればよいかわからない」「自社の対策状況を客観的に評価してほしい」という方は、お気軽にご相談ください。

お問合せフォームはこちら

鈴木 秀哉

鈴木 秀哉

株式会社クラッド/SNSリスクコンサルタント

SNSリスクコンサルタントとして、70社以上の企業のリスク対策体制の構築に携わる。
大手企業から自治体まで幅広い業種の炎上事案に対応してきたほか、企業向け研修講師として延べ1,300名以上に指導。現在はSNSリスク管理の構築から危機発生時の対応アドバイスまでを支援。